【おすすめインスト】葉加瀬太郎の異世界「タイムメッセンジャー」を聴こう

音楽は時間を相手にした芸術である。時間のない世界に音楽は成立しない。音楽家は時間を媒体にして聴き手にメッセージを伝えようとし、聴き手は時間を介してメッセージを汲み取ろうとします。時間をどう味わうかが音楽の醍醐味だと言っていいと思うのです。

「タイムメッセンジャー」は葉加瀬太郎2007年のアルバム、『SONGS』に収録されています。

それではさっそく曲をかけましょう。

…ぽち

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いちばん身近なメッセンジャー

ぼくの妄想するところによれば、舞台は荘厳な建築の図書館。天井が見えないほど高い空間に書架が整然と立ち並んでいて、あらゆる言語で書かれた書物が収められています。館内にひとけはなく、自分の足音だけが響いている。

本は物語(記憶)への入り口。そうならば一番身近なタイムメッセンジャーとは本のことではないでしょうか。

イントロのエレクトリックだが柔らかい響きは、本が収められている書架をゆっくりと映してまわります。そこへヴァイオリンが見事な静けさで入ってくる。どの本を読むか吟味するような演奏が続いたあと、パーカッションが登場して転調

力強い4つ打ちのリズムとともに、明るい旋律がはじまります。

記憶はいまの自分の投影である

実はここのAメロ、調が違うだけでイントロの旋律とほぼ同じことをしています。メロディの動きは同じなのに、コードの付け方や音の高さ、リズムによってこうも印象が違ってしまうのか。

情景としてはおそらく、読むべき本にめぐり合い、その本が映し出す物語へと吸い込まれていった先の風景でしょう。そこではもう図書館内の雰囲気は完全に排除され、記憶の中へと没入しています。

記憶はいまの自分の投影だと思う。

どんなにひどい体験をしたとしても、それを過去の出来事として笑えるようになれば、その記憶はある種の懐かしさを帯びてくるということがあると思います。記憶の良し悪し(過去の意味)はいつも現在を生きる者が決めているのであって、だから、記憶の内容よりも記憶がどう見えるかの方が重要だと思うのです。

Aメロはそういう懐かしさを存分に感じさせてくれます。

別離のBメロ

葉加瀬ヴァイオリンの超絶技巧パッセージに耳が奪われるBメロだが、コード進行はAメロほど無尽蔵に明るくはない。物語に没入していたのが、しだいに現実(図書館で本を読んでいる)が意識にのぼってくるといった感じだ。

物語の内容が悲劇的だとか、そういったことではなくて、物語への懐かしさから引き剥がされていくという別離のフレーズに聴こえる。

頑なに調性を守ってきたメロディに初めてのダイアトニック外音が現れます。揺らぎがだんだんと大きくなり、緊張感が高まってゆく。

引き裂かれるクライマックス

打ち上げ花火のような破裂音ではじまるサビ。読んでいる物語がクライマックスを迎えているが、同時にその物語を読んでいる自分というものもどうしても意識されてしまう。そうした引き裂かれの状態をヴァイオリンが最高度の解放感で歌います。

物語が終わると、そこには図書館に立つ自分しか存在しない。しかし突然現実に引き戻されたのではなく、物語を読んでいるときから「本を読む自分」という意識はありました。したがってここで行われた転調も、転調と気づかないほどのなめらかさで行われます。

ちょこっと解説

ここでアンダーラインを引いた言葉の簡単な解説をします。興味がない方は飛ばしてください。

転調
ここはAマイナーキーからAメジャーキーへの転調と言っていいと思います。Aという主音を共有する同主調間のよくある転調ですね。
コード進行はAメロほど無尽蔵に明るくはない
ここも考えようによってはAからF#mへの転調と考えることもできます。ただこの2つのキーは使われるコード群が同じなので、転調した/してないの厳密な議論はあまり意味を持たないことが多いです。とくに現代ポップスにおいては。
ダイアトニック外音
ダイアトニック(ダイアトニック・スケール)とは、あるキーの基本となる7音のこと。BメロのキーはA(F#m)なので、A B C# D E F# G# の7音がダイアトニック内音、それ以外の音がダイアトニック外音ということになります。ダイアトニック内外の判別ができるようになると、曲に仕込まれたトリックがわかるようになっておもしろいです。

虚構と現実の狭間

この曲では途中でインターをはさんで、2つの物語を読んでいます(Aメロ・Bメロ・サビが2回繰り返されます)。そしてその都度現実が強い力で引き戻しにかかる。虚構と現実の狭間を揺れている。

2回目のサビのあと、3回目のサビは転調(イントロと同じ調:Am)して繰り返されます。物語のクライマックスと現実のクライマックスが融合した形でソフトランディングし、曲は終わります。

…妄想によるイントロダクションはこの辺で。あとは耳で味わっていただければと思います。ぼくは読書がしたくなりました。

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