【おすすめインスト】「船上にて」異世界感を味わう。葉加瀬太郎

数年ぶりに船に乗りました。もうすぐ世界遺産に登録されそうな福岡・宗像大社の近くにある大島という島に渡ってきました。

車も運ぶようなフェリーで、終始エンジンを轟かせながら接岸はガツン!という豪快な旅だったのですが、今回紹介する「船上にて」はまったく逆タイプの船を想像します。

それでは聴きましょう。

…ぽち

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川をゆく屋形船

ゆったりという言葉でしか表現できないようなリズムです。中庸を説いた孔子がアルバムを作ったらこんな曲ばかりかな、と思うほどのちょうど良さ。

とてもゆっくりと船が進んでいく。天気は晴れ。だけれども快晴ではなく雲が2,3浮かんでいる。波はほとんどなく、音も聞こえない。そうするとやはりここは海をゆく大きな船よりは川に浮かぶ小さな舟という気がしてきました。

最後の清流、四万十川をゆく屋形船。山がちな四国のイメージに違わず、川の両脇には山が迫っています。

舟から川を見下ろせば、恐怖を感じるほど透き通った水が悠然と流れていて、波ひとつない鏡のような水面をはさんで、本物と見間違うような舟の像が水中を進んでいる。

漕ぎ手が操る櫂の音だけが時間の存在を教えてくれるのであった…

ところがBメロに入ると突然、一瞬だけ世界は水中の舟と入れ替わる。一瞬の仕業なのだが、明らかに別世界に来てしまった。水面の遥か下を雲が流れ、太陽が下から照らす。空には砂や石、魚が輝き藻が風になびいている。この間わずか1小節。

次の瞬間には夢から醒めたかのようにもとの世界に戻っています。空には雲がのんきにしていて、不思議な体験は忘れ去られていく。

サビに入っても曲調は変わらず、ゆったりと流れる。不思議なことなんてひとつも起こらなかったかのように。

解説

お気づきのとおり、この曲のいちばんおもしろい部分はBメロ最初の1小節目です。ここだけ妙に光って聴こえる。それはキラキラした音色の影響だけではなく、コード自体が異世界のものだからです。

別世界に来てしまった

この曲のキーはDメジャーです。するとダイアトニックコードは、Dmaj7,Em7,F#m7,Gmaj7,A7,Bm7,C#m7(♭5)となり、この7つのコードを基本に曲は進行します。ところがBメロの最初のコードはBmaj7。Bm7ではなくBmaj7がメロディの頭にいきなり登場するのです。

「船上にて」はイントロからAメロの終わりまでほとんどダイアトニックコードだけで構成されているぶん突然のダイアトニック外コードのインパクトは大きく、ワープしてしまったような感覚をもたらすのです。

こういう微妙な世界の変化は、スピーカーの前に座ってじぃっと聴き入っていると実感を伴ってわかります。

身体をダイアトニック環境で泳がせるように聴く、とでも言いましょうか。そうやって浸っていると些細な変化にも敏感になる。普段は聴き過ごしていたトリックが聴こえたというのは遺跡発掘のような地味なものかもしれませんが、その悦びは何にも代えがたいものです。

「船上にて」は葉加瀬太郎2007年のアルバム、『SONGS』に収録されています。

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